April 0942015

 カンニング見つけし刹那啄木忌

                           岡本紗矢

の昔、まるで勉強のできない小学生だったわたしは試験用紙を目の高さまで上げて隣の席の答えを盗み見たことがある。その刹那、先生の雷が落ちた。首を縮める私めがけて突き刺さる同級生の視線が痛く、二度とズルはやめようと思い知った。その自分が教壇に立って試験監督をする立場になったとき、人の答案を盗み見る不審な動きがどれだけ目立つものであるのかがわかった。試験を突破していくことで次のランクを目指すシステムの渦中にあって、勉強が得意な子もいれば哀しいぐらい出来ない子もいる。本人がわからぬようやっているつもりのその行為を見咎めて一喝するのも教師、衆目の中で怒る言葉を呑み込んで、どうやってその不当な行為を本人にわからなせようか悩むのも教師。その刹那、さまざまな感情が交叉する。その複雑な気持ちが人間の心の機微を歌にした啄木とも交わる。啄木忌は4月13日。27歳の若さで貧困のうちに生涯を閉じた。『向日葵の午後』(2014)所収。(三宅やよい)




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