April 022015
ほぞの緒をくらきに仕舞ひ落花踏む
吉田汀史
ほぞの緒はへその緒。生まれてすぐ臍帯を切断するが、新生児のおなかについた臍の緒が乾いてぽろっと落ちたものを小さな桐の箱に入れて退院時に渡してくれる。多くはそのまま母親の箪笥の奥に仕舞われて、ふたを開けられないまま何十年も忘れ去られてしまうのだろう。胎内で母親から栄養を送り込まれるのに大切な役割をしていたものが、黒く乾いて干からびてゆく。掲句は「くらきに仕舞ひ」と箱に入れられた直後から次にその臍の緒の主である子どもが自分の臍の緒を再び手に取るまでの時間が畳み込まれているようだ。その時間は臍の緒を断ってから母と子が別々な生を歩み続けてきた時間でもある。地面に散り敷く落花が生れ落ちてから今までの長いようであっけない時間を凝縮しているように思える。『汀史虚實』(2006)所収。(三宅やよい)
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