March 1932015

 本名は知らず付き合ふすみれ草

                           森泉理文

会をはじめとする俳句の集まりは来るものは拒まず、去る者は追わずが原則。俳号を知っていても、本名や仕事はもちろん私生活もわからないことも多い。句会という場を通じて句を読みあう仲で、10年以上毎月顔を合わしていながらに何も知らないままいつの間にか付き合いが途絶えることも珍しいことではない。淡い付き合いだけど句を取り合う間に相手の感性の在りどころも考え方も自ずとわかってくる。そんな相手と顔を合わすのはトレッキングやハイキングでひっそりと咲くすみれ草を足元に見つけた気持ちに似ているのかも。芭蕉の「山路来て何やらゆかしすみれ草」の心持にも通じる。道のべに咲くこの花のように目立たなくて、かそけき付き合いかもしれないけど大事な付き合い、本名を知らないままふと気づけば会うこともなくなった。それもまた心にしみるものだ。『春風』(2014)所収。(三宅やよい)




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