March 1432015

 花菜漬行つてみたきはぽるとがる

                           矢野景一

一雄が見た夕日を見にポルトガルに行きたい。国文学専攻の友人の一言でポルトガルへ、二十年近く前のことだ。サンタクルスにあるという「落日を拾ひに行かむ海の果」の石碑の記憶は乏しいが、最西端の岬で見た夕日は印象深い。掲出句、作者は花菜漬の明るい緑と小さな黄に春の訪れを感じて旅心を誘われたのだろう。ほのかな苦味を楽しみながらポルトガルに思い至ったのは、前出の友人のように学生時代からの思いがあったのか、それともふと思いついたのか。ヨーロッパ旅行の目的地として決してメジャーとは言えないポルトガルだからこその味わいがあり、つぶやいた時の音と同様、ぽるとがる、の文字がやわらかく春らしい。(2014)『游目』所収。(今井肖子)




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