March 0132015

 鶯のこゑのためにも切通し

                           鷹羽狩行

の声質は濃厚です。体の大きさに比べてその声量も大きく、たとえるなら、森のテノール歌手といってよいほどです。したがって、求愛の歌をうたう舞台にも、それなりのしつらえがあった方がよいでしょう。私の住む国分寺市にも切通しは保存されています。西国分寺駅から武蔵野線沿線を府中方面に1kmほど向かうと「伝・鎌倉街道」の碑があり、道幅3mほどの土の道が続きます。小高い山を切り開いて作った道なので、片側は10mほどの崖になっており、「いざ鎌倉」の時、軍馬が駆け抜けた面影を偲ぶことができます。切通しを効果的に使った映画に、鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』があります。もう、十年以上前になりますが、この切通しの現場を見たくて鎌倉に 行きました。手掛かりがないまま、何となく「鎌倉キネマ館」というbarに入ると、鈴木清順の古い映画を上映していて、そこのマスターに「ツィゴイネルワイゼンの切通しのロケ地はご存知ですか」と尋ねたら、となりに座っていた初老の紳士が「あれは、釈迦堂と化粧坂だよ」と教えてくださり、地図を書いてもらって、翌日歩きました。それ以来、鎌倉に行くときは、釈迦堂の切通しまで足を伸ばします。そこでは、春から夏にかけて、鶯の濃厚ではっきりした声を聴くことができます。切通しが、天然の反響磐になっていて、森のテノールを演出しています。掲句では、鶯の声が森の中を切り通して届かせている、そんな余韻ものこります。『定本 遠岸』(1996)所収。(小笠原高志)




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