February 112015
うつぶせの寝顔をさなし雪女
眞鍋呉夫
雪女といえば眞鍋呉夫である。「雪女」を詠んだ秀句が多いし、だいいち『定本雪女』(1998)という名句集があるくらいだ。掲出句も同書に収められている。「寝顔をさなし」ゆえ、呉夫にしては一見やさしそうな(あるいは幼い)雪女であるように思われるかもしれない。しかも「うつぶせ」になっているのだ。しかし、この雪女は幼童ではなく大人であろう。たとえ雪女であっても、寝顔そのものは幼く見えることもあろう。まして、うつぶせになっているのだから無防備に近い。けれども、どうしてどうして、呉夫の句はクセモノである。寝顔は幼いかもしれないが、目覚めればたちまち恐ろしく妖艶な雪女に一変するに決まっている。寝顔が幼いところに、むしろ雪女の怖さがじつはひそんでいる。呉夫の雪女が芯から幼いはずがないーーと考えてしまうのは、こちらの偏見だろうか。寝顔が幼いからこそ雪女には油断ができない。雪女の寝顔をそっとのぞきこんで、このような句を作ってしまう呉夫の形相も、雪女に負けず恐ろしいことになっているにちがいない。雪女の句が多いなかで、「口紅のあるかなきかに雪女」を挙げておこう。(八木忠栄)
『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます
|