February 0122015

 天の邪鬼虎落笛をば吹き遊ぶ

                           相生垣瓜人

五は「吹き遊(すさ)ぶ」とルビがあります。そこに、へそ曲がりな天の邪鬼のふるまいが表れています。天の邪鬼は、虎落笛(もがりぶえ)で冬の烈風を吹き遊んでいる。それを聞く人は、寒々とした心持ちになりますが、性根の曲がっている天の邪鬼は、聞いて怯える子どもらを笑い飛ばしています。しかし、天の邪鬼には悪気はなく、ふつうに冬将軍を楽しんでいるだけなのでしょう。だからかえってたちが悪い。そのような、天の邪鬼を主体とした句作が面白く、それは、季節を詠んでいるということにもなります。句集には他に、「虎落笛胡笳の聲にも似たらむか」があり、「胡笳(こか)」は、アシの葉を巻いて作った笛で、悲しい音が出るそうです。また、「徒然に吹く音あれや虎落笛」。この句の主体も、風が竹垣を奏でる冬を広くとらえたものでしょう。なお、「もがり」は古くは「殯」で、高貴な人を仮葬すること。後にその木や竹の囲いをもがりと呼びました。それが、戦場で防衛するための柵となり、虎落の名がついたといいます。以降、転じて、人を通さない縄をもがり縄と言い、横車を押す者、ゆすりたかりをもがり者というのもそこから出てきているようです。だから、天の邪鬼が虎落笛で遊ぶのは、然るべきなんですね。『相生垣瓜人全句集』(2006)所収。(小笠原高志)




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