January 2512015

 餅膨れつつ美しき虚空かな

                           永田耕衣

、目の前で餅がふくらみ始めています。真っ白な餅が少し茶色くこげ始めて美しい。熱々の焼きたてをいただくとき、口の中ではホクホクしながらほおばります。それが「虚空」の味わい。つまり、「虚空、虚空、虚空」とくり返し唱えると、「ホクホクホク」となるのです。嘘です。餅は、餅米を蒸してから、熱々のうちにペッタラ、ペッタラとつき始めますが、そのペッタラが、掲句の「虚空」のもとですね。ペッタラ、ペッタラと餅をついているとき、餅と餅の粒子の間に空気も一緒に入れ込ん でついているのです。うまい握り鮨は、米粒と米粒の間にほどよい空気が含まれているのだと言われますが、餅の場合は、ペッタラペッタラとつかれている間に、ナノサイズの空気の分子が餅と餅の間に入り込んで、それが、モチモチした食感となるわけです。それを強火で焼くと、ペッタラペッタラと入り込められていた空気が膨張し始め、虚空のホクホクしたうまみが造成されるわけです。掲句を改めて見直すと、「つつ」は、餅が膨らんだ状態にも見えてきます。耕衣ならばこんな仕掛けを楽しんだかな、と思いますが、以上の全て、私の妄想です。『永田耕衣五百句』(1990)所収。(小笠原高志)




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