December 29122014

 暖房の室外機の上灰皿置く

                           榮 猿丸

煙家ならば、誰もがうなずける句だろう。いまではたいていの室内が禁煙だから、吸いたいときには室外に出ざるを得ない。句は、オフィスの室外だろうか。寒風の吹くなか、震えながらの喫煙となるが、灰皿を持って出ても、適当な置き場所もないので手近の室外機の上に置いている。そもそも室外機の上に物を置く行為がなんとなく後ろめたいうえに、そんなことまでして煙草を吸う惨めさが身にしみてきて、およそゆったりとした気分にはなれない。だが、それでも吸いたいのが煙草好きの性なのだ。味わうなんてものじゃなく、とにかく煙を吸ったり吐いたりする行為にこそ、意味があるわけだ。どんな職場にもそうした男たちが何人かは存在する。仕事ではウマが合わなくても、こういう場所では同志的連帯感がわいてくる。これからの季節、しばらくはこんな情景があちこちで見られるだろう。喫煙者以外には、わかりにくい句かもしれない。『点滅』(2013)所収。(清水哲男)




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