November 05112014

 莖漬の石空風となる夜かな

                           百田宗治

般に「茎漬」という言い方はあまり聞かないが、蕪や大根などを葉や茎も一緒に塩漬けしたもの。葉や茎をつけたままの塩漬けや糠漬けには、野趣が感じられうまさが増す。冬場の漬物にはいっそうのうまさがある。そんな時季だから、漬物の「押し」となっているごつい石にも、格別寒々としたものが感じられる。外は空風が吹いている。台所でふと目にした漬物石であろう。昔はどこの家でも、代々使われてきた桶と代々使われてきた石がセットになって、自家製の漬物が姑から嫁か娘へと伝授されていた。外は空風、冷え冷えとした石の下では、茎漬が刻々と味よく漬かっていく。石、塩、空風……そんな夜である。「民衆詩派」のひとりだった宗治は、広くはあまり知られていない詩人だけれど、よく知られた♪どこかで春がうまれてる……の歌の作詞者である。宗治は昭和十年代末頃から、萩原朔太郎、室生犀星、西脇順三郎たちを月例句会に誘い、その後「句帖」を創刊した。俳句的詩風への変化を指摘されたこともある。『文人俳句歳時記』(1969)所収。(八木忠栄)




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