November 02112014

 流星のそこからそこへ楽しきかな

                           永田耕衣

会いの絶景というは第一義上の事なり。これは、耕衣主宰『琴座』三百号(昭和50年)に掲げた俳句信条「陸沈の掟」十ヶ条の一つです。先週、10月26日(日曜)午前、私は神戸市兵庫区に滞在していました。この日の増俳は耕衣の「薪在り灰在り鳥の渡るかな」でしたが、神戸に来たからには何かしら故人の足跡を辿りたいと思っておりました。また、耕衣の句集を手に入れたいとも。持参した『永田耕衣五百句』の編者金子晉氏にお電話して著作を購入したい由を申し出ると、即座に 耕衣の愛弟子岡田巌氏のご住所と電話を紹介していただき、私はタクシーに乗り「そこからそこへ」「流星の」ごとく、岡田氏の自宅書斎に案内されました。書斎正面には、耕衣揮毫の「非佛」が太くでんと飾られていて、それは、井上有一の書に通底する自由闊達な動態です。耕衣は生前書画を多く描き、その遺作の大半は姫路文学館に収蔵されていますが、耕衣が愛蔵した何点かは師の遺志で岡田氏に託されていました。なかでも、耕衣が最も気に入って自宅書斎に飾っていた「ごって牛」の書画は、岡田氏預かりとなっておりました。二時間の滞在中、ありったけの書画を出して見せて下さった中で、いちばん最初に封を切って開いてくださった「ごって牛」には、「薪在り灰在り鳥の渡るかな」が揮毫されて いました。この日の増俳の句です。耕衣の書画に囲まれて二人、不思議な午後の西日に包まれておりました。「強秋(こわあき)ですね」と岡田氏。「強秋ですね」と私。尚、神戸に来るきっかけを作ってくださったのは、10月18日の余白句会あとの酒席で、阪神甲子園球場は「楽しきかな」と語ってくださった清水哲男さんです。『永田耕衣五百句』(1999)所収。(小笠原高志)




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