October 28102014

 いつよりか箪笥のずれて穴惑

                           柿本多映

位置に置かれている箪笥。部屋の大物は一度場所を定めたら、よほどのことがない限り動かすことはない。いつもの見慣れた部屋の配置である。とはいえ、あるときふとあきらかに箪笥が元の位置よりずれていることに気づく。わずかに、しかし確固たるずれは、絨毯の凹みか、あるいは畳の焼け具合がくっきりと「これだけずれました」と主張しているようで妙に不気味に思われる。確かにここにあったはずのものがこつぜんと消失したりすることなど、日常によくあるといえばあることながらホラーといえばホラーである。穴に入り損なってうろうろしている蛇のように、家具たちも収まる場所が違うとよなよな身をよじらせていたのかもしれない。知らず知らずのうちに狂っていくものに、薄気味悪さとともに、奇妙な共感も得ているように思われる。〈ゆくゆくは凭れてみたし霜柱〉〈たましひに尻尾やひれや蟇眠る〉『粛祭』(2004)所収。(土肥あき子)




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