October 25102014

 秋の蚊の灯より下り来し軽さかな

                           高濱年尾

の中や家の中にふと蚊が一匹紛れ込んでくることがある。今年は例の騒動で秋の蚊にはことに敏感に反応、すぐさま追い出したり叩いたりしてしまったので掲出句のように観ることもなかった。この句、大正七年作者十八歳、開成中学五年の時の作。当時余りに俳句に熱心な年尾に虚子は、中学生としての本分である勉強に専念せよ、と俳句を禁じたが名前を変えて「ホトトギス」に投句した、という逸話もあるという。そんな年尾青年が秋灯下、一匹の蚊を見つけその動きをじっと見つめ考えている様子が浮かぶ。どこか心もとなく弱々しい様から、軽さかな、という下五がごく自然に口をついて出た時、句をなした実感があったのではないか。明日十月二十六日は年尾忌。「高濱年尾の世界」(1990・梅里書房)所載。(今井肖子)




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