October 13102014

 夜汽車明け稲の穂近し吾子近し

                           大串 章

ぼ半世紀前の句。初産の妻を故郷の実家に帰していたところ、無事に吾子誕生の知らせが入り、作者は急遽夜行で故郷に向かった。夜汽車に揺られながらの帰郷。当時はごく普通の「旅」であった。が、いつもとは違い、そう簡単には寝つけない。もんもんとするわけではないのだが、初めての子供の誕生に気が昂ぶっているせいである。父親になったことのある人ならば、この気持ちをつい昨日のことのように思いだすことができるだろう。久しぶりにこの句を読んで、私も往時の興奮した気分を思いだした。そして、ようやくうつらうつらとしはじめた目に、夜明けの故郷、まぎれもない故郷の田園風景が目に染み入ってきて、「いよいよだな」とまだ見ぬ吾子が具体的に近づいてきたことを知らされる。変な言い方だが、ある種の「覚悟」が決まるのである。そんな初々しい感慨が詰まった句だ。もう一句。「妻より受く吾子は毛布の重さのみ」。人生、夢の如し…か。『朝の舟』(1978)所収。(清水哲男)




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