October 05 2014
薪能観てきて籠る秋簾
石原八束
舞台を観て、人生が変わることが稀にあります。それは、一時的な変化であったとしても、記憶は強く残ります。作者のように、観劇の感動を句に残しているならなおさらでしょう。薪能では、観る側の角度によって舞台がゆらいでみえることがあります。炎の熱を通すと役者はかげろうの中で舞っているようにみえる瞬間があります。謡が轟き、鼓は夜空へと響き渡り、作者その余韻を抱えたまま帰途に着きました。家人への挨拶もそぞろです。夢幻能の中に入り込み、その夢から醒めないために、自身を簾の内という異界に籠もらせます。それは、舞台を反芻しながら、繭が糸をつむいでいくような時間を過ごすことでしょう。観劇した感動を発散せず、身の内へと籠めていく能動性。秋簾の中に、上手の見者の姿を観ます。『白夜の旅人』(1984)所収。(小笠原高志)
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