September 1792014

 地球も命も軽しちんちろりん

                           正津 勉

いころ読んだ開高健の『太った』という小説のなかに、「地球が重い重いと言いながら、太ったやないか」と相手を咎めるセリフがあった。もう何十年も忘れることができないでいる言葉である。今も昔も「地球」や「命」は、何よりも貴重だったこと、言うも愚かしい。それらが年々歳々ふわりふわりと軽いものになり、国の内外を問わず危うい状況を呈しつつある。とりわけ近年はどうだい! そのことをいちいち今述べるまでもあるまい。これでは「地球」も「命」も、いつまで安穏としていられるか知れたものではない。草むらでしきりに鳴いているちんちろりん(松虫)に、地球も人も呆れられ嘲笑されても仕方がない。「……軽しちんちろりん」がせつなく身にこたえる。俳味たっぷり風流になど、秋の虫を詠んでなどいられないということ。「ちんちろりん」は『和漢三才図絵』には「鳴く声知呂林古呂林」とある。勉の「虫の秋」五句のうちの一句。他に「がちやがちや我は地球滅亡狂」という句が隣にならぶ。勉らしい詠みっぷり。「榛名団」11号(2014)所載。(八木忠栄)




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