September 0592014

 いぶしたる爐上の燕帰りけり

                           河東碧梧桐

葺の古民家が目に浮かびます。真っ黒に煤けた大黒柱があって爐(いろり)があってボンボン時計がある。そんな爐上に何故だか燕が巣を作った。成り行きながら雛がかえって巣立ちもした。この家の者も愛しみの眼差しを向けて日々雛の成長を楽しみにする。時々寝言で鳴く「土食って渋ーい、渋ーい」に寝付かれぬ夜もある。何匹かの子燕の特徴を識別して名前など付けてしまう。そして燕たちが自分の家族とも思はれて来る頃その日は来る。見知らぬ遠い国へ旅立ってしまうのだ。後にはぽかんとした空の巣がそこにあるだけ。誰にでもやって来るその日はある。『碧梧桐句集』(1920)所収。(藤嶋 務)




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