September 0192014

 その中の紺を選びし九月かな

                           木村三男

るほどな、と思う。が、読み返してみると、何も書いてない。書いてないは言い過ぎだろうが、書いてあることはいろいろな色彩の中から、(誰か、あるいは何か)が「紺」色を選んだという、はなはだ頼りないことだけである。それでいて、句の磁石は真直ぐ九月という季節を指している。したがって、何も書かれていないようでいて、作者の言いたいことは誰にでもわかりやすく、きちんと書かれているということになる。すなわち、ここにひとつの俳句の典型がある。好き嫌いはべつにして、俳句づくりは誰もがこの典型に突き当たらざるをえないのだろう。『現代俳句歳時記・秋』(2004・学習研究社)所載。(清水哲男)




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