July 2572014

 老人よどこも網戸にしてひとり

                           波多野爽波

は老いる。必ず、老いる。そして、老いはしばしば孤独を伴うものである。配偶者が亡くなり、子供も訪ねてくることなく、日々、一人で生活せざるを得ない場合もある。爽波がここで描いた老人も、また、ひとりである。「老人よ」の呼びかけが、作者の老人への共感を表している。どこも、網戸にしてというのは、涼しげなイメージを浮かべるかも知れないが、ここでは、窓やガラス戸など、家の内と外とを隔てている境界を出来る限り取り外し、網戸によって外界に繋がろうとする、老人の意識下の願望が感じられる。そして、下五の「ひとり」という呟きのような結び。爽波の句で、「老い」の心境を詠んだ句は、ほとんど見られない。それだけに、心に残る一句である。『一筆』(平成2年)所収。(中岡毅雄)




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