May 18 2014
松が枝をくぐりて来たり初扇子
桂 信子
来客を詠んだ句でしょうか。そうならば、挨拶句と言えそうです。俳句は短い形式なので、句の中にドラマを盛り込むことは簡単ではありません。掲句にもドラマ性はありませんが、来客の身体の動きは伝わります。これが、「松が枝」を舞台にして「扇子」を持って舞う踊り手のような印象を与えています。一句が地唄舞の歌詞のようになっていて、松が枝をくぐり抜けてこちらへやって来る所作はたをやかです。この粋客は、たぶん着物に白足袋、草履をはいて、扇子を手にしています。ところで、日本舞踊の修練は、日常の立居振舞を洗練することにあり、同時にそれが目的であると聞き及んでいます。その身体は屈んだり、畳んだり、折り込んだりする仕舞いの動作で、西洋のバレエダンサーが天に向けて身体を開くのとは対照的な、内へと向かう所作です。そうならば、扇子を手にするということは、折り畳み、仕舞い込む品性を持つことの象徴とも考えられます。掲句の粋客は、作者にとって、今年初めて目にする扇子を手にしています。初夏を運ぶ客に対する挨拶句と読みました。『樹影』(1991)所収。(小笠原高志)
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