April 2742014

 漫画読む鬚の青年めかり時

                           沢木欣一

かり時は晩春の季語。蛙(かわず)の目借時を縮めた言い方です。蛙が人の目を借りるから春は眠気をもよおすという俗説で、戯画的な季語です。掲句の鬚の青年は、文学青年かアーティスト風か、一見高尚な面立ちながら漫画に集中している、そのギャップに着眼しています。作者は東京芸大の国語教師だったので、後者を揶揄(やゆ)しているのかもしれません。句集発行は昭和58年で、漫画の文化的な価値は日本でも世界でも現在ほど評価されていなかった時代です。だから、アーティスト風情が漫画なんかを読んでいたら蛙に目を持っていかれるぞ、という警告なのかもしれません。しかし、「めかり時」という季語自体が戯画的なので、句全体を晩春の気候のように青年の鬚すらおだやかに包んでいます。なお、句集にはもう一つ「飽食の昭和後代めかり時」があり、こちらはかなり警句的です。『遍歴』(1983)所収。(小笠原高志)




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