April 02 2014
掃除機を掛けつつ歌ふ早春賦
美濃部治子
治子は十代目金原亭馬生の奥さん。つまり女優池波志乃の母親である。いい陽気になってきて部屋の窓を開け放ち、掃除機を掛ける主婦の心も自然にはずんで、春の歌が口をついて出てくる。♪春は名のみの風の寒さや/谷のうぐいす歌は思えど……。掃除をしながら歌が口をついて出てくるのも、春なればこそであろう。大正2年、吉丸一昌作詩、中田章作曲によるよく知られた唱歌である。治子は昭和6年生まれの主婦だから、今どきのちゃらちゃらした歌はうたわなかったかもしれない。考えてみれば、落語家の家のことだから、掃除は弟子たちがやりそうなものだが、馬生夫婦は弟子たちには、落語家としての修業のための用しかさせないという主義だった。だから家のことはあまりやらせなかったというから、奥さんが洗濯や掃除をみずからしていたのだろう。志乃さんがそのことを証言している。いかにも心やさしかった馬生らしい考え方、と納得できる。治子は黒田杏子の「藍生」に拠っていたが、平成18年に75歳で亡くなった。春の句に「職業欄無に丸をして春寒し」がある。『ほほゑみ』(2007)所収。(八木忠栄)
『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます
|