March 2332014

 てふてふのひらがなとびに水の昼

                           上田五千石

白い。けれどわからない。しばらくしてから読み返して、春のおだやかさが、明るい無風状態で描かれていることがわかりました。まず、「ひらがなとび」がうまい。「カタカナとび」では鋭角的だし、「漢字とび」は困難。「てふてふ」の羽根が、おだやかな春の空気に乗って、ひらがながもつ曲線を描きながらややぎこちなく通り過ぎています。その場所は「水の昼」です。これも最初はわかるようでわかりませんでした。日常的ではない詩的な言葉遣いです。ただ、しばらくして、このまままっすぐ読んでいけばいいことがわかりました。「てふてふ」は、水の上を飛んでいて、水面にも「ひらがなとび」は反射しています。空中の「てふ」と水面の「てふ」。これは分解しすぎかもしれませんが、読みながら遊べる句です。春を最も感じられる昼、無風の水面を蝶がゆっくり過ぎていきました。『琥珀』(2002)所収。(小笠原高志)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます