March 0432014

 鶯を鶯笛としてみたし

                           西村麒麟

話ではなにかにつけ美しい声が重宝された。人魚姫は声と引替えに人間の足をもらい、塔の上のラプンツェルは狩りをしていた王子の耳に歌声が届いた。王を死神から守ったのは小夜啼鳴(ナイチンゲール)の囀りであり、小夜啼鳴の別名は夜鳴鶯である。日本に生息する鳴き声が特に美しいとされる三鳴鳥は鶯、大瑠璃、駒鳥だそうだが、ことに鶯は古くから日本人に愛され、江戸時代には将軍家に特別に鶯飼という役職があったほどだ。掲句にも鶯の鳴き声に聞き惚れ、その囀りに惑わされた人間の姿が見えてくる。鶯を飼いならすには収まらず、笛として独占したいという作者に、魅了された者の悪魔的な展開が予感される。『鶉』(2014)所収。(土肥あき子)




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