February 12 2014
春銀座また出し忘れたる葉書ここ
永井龍男
四季を問わず、投函するつもりの葉書をカバンに入れたまま投函するのを忘れてしまい、帰宅してから「しまった!」と気がつくという経験は、どなたにもあると思う。私にも何回か同じような経験があるし、ひどい時は葉書を二日間持ち歩いたなんてこともある。掲句は「また」というから、一回や二回の失敗ではないのだ。あの謹厳そうな表情をした龍男が「また、やっちゃった!」というのだから、どうにも可笑しい。本人の苦笑が見えるようだ。春の銀座だから陽気も良くて、いろいろなモノやコトに気を取られてブラブラしているうちに、つい投函しそこなった葉書を「まだ、ここにあった」と帰宅してから確認して頭をかいている図である。「ここ」というリアリティーが効果的である。銀座あたりを歩く場合にはできないことだが、私はいつも利用している駅へ行く途中にポストがあるから、投函を忘れないために郵便物はカバンなどにしまわず、手に持ったまま家を出てポストの前を通ることにしている。手に持ったまま忘れてしまうことは、まだ今のところない。龍男の春の句に「立春や王将は豊かに厚し」がある。『文人俳句歳時記』(1969)所収。(八木忠栄)
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