November 152013
暗幕にぶら下がりゐるばつたかな
波多野爽波
真っ黒な暗幕に、緑色の螇蚸がぶら下がっている。その一点の景がクローズアップされている。この螇蚸、決して、愛らしいモノとして描かれているのではない。むしろ、無韻の中、不気味な心象風景として表現されている。暗幕というモノと螇蚸というモノ。それぞれが、単独で描かれれば、別に、何ということはない。しかし、暗幕というシチュエーションのもと、そこに見出された一匹の螇蚸は、強烈な違和感を読者にもたらす。その違和感が、モノの実在感・存在感をありありと感じさせる。『骰子』(1986)所収。(中岡毅雄)
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