September 09 2013
熊笹に濁流の跡いわし雲
矢島渚男
秋雲の代表格である「いわし雲」は、気象学的には絹積雲(けんせきうん)と言うそうだ。美しいネーミングである。句は、台風一過の情景だろうか。地上では風雨になぎ倒された熊笹の姿がいたいたしいが、目を上げると、真っ青な空にいわし雲がたなびくようにして浮かんでいる。私も山の子なので、この情景は何度も目にしている。目に沁みるような美しさだ。なんでない表現のようだが、作者は雲の表し方をよく心得ている。雲を描くときの基本は、まさにこうでなければならない。すなわち、この句の「いわし雲」のありようを裏づけているのは、泥にまみれた「熊笹」だ。この両者の存在があってはじめて「いわし雲」の美しさはリアリティを獲得できている。『采薇』(1973)所収。(清水哲男)
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