July 26 2013
波のなき水をひろげて錦鯉
鷹羽狩行
この短い詩形の中で、言葉の通念的な組み合わせはまさに陳腐な情緒しかもたらさないはずなのだが、そうはならない「奇跡」もときに起こる。波と水、水と鯉、錦鯉の華麗。これらは予定調和のつながりであり、錦という言葉であらかじめ説明されている装飾的華麗さである。その類型的詩興しかもたらさないはずの組み合わせが「なき」と「ひろげて」で手品のように新鮮な風景を構成する。「なき」と「ひろげて」は知の力。風景を知の力で再構成するのだ。澄んだ水の中の鯉の鰭のうごきが克明に見えてくる。こういう句をみると俳句の可能性、「写生」ということの可能性を信じないわけにはいかない。どんな大差がついた試合でも九回の裏のツーアウトまで大逆転の可能性は残されている。『十七恩』(2013)所収。(今井 聖)
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