May 27 2013
会ひたしや苗代時の田のどぜう
鳥居三朗
私も会いたい。苗代時のよく晴れた日の田んぼには、いろいろな生きものが動き回っているのが見えて、子供のころには飽かず眺めたものだった。なかでものろのろとしか動けないタニシと、逆に意外にすばしこい動きをするドジョウとが、見飽きぬ二大チャンピオンだったような……。そんな生きものにまた会いたいと思うのは、しかしその生きものと会いたいというよりも、そうやって好奇の目を輝かしていたころの自分に会いたいということだと思う。そのころのドジョウと自分との関係を、そっくりそのまま再現できたらなあと願うわけだが、しかし厳密に言えば、それはかなわぬ願望である。彼も我もがもはや昔のままではないのだし、取り巻く環境も大きく変わっているからだ。なんの変哲もない句だけれど、この無邪気さは時の流れに濾過された心のありようを感じさせる。なお「どぜう」という表記は誤記だろう。ドジョウの旧かな書きは「どじゃう」でなければならない。「どぜう」は「駒形どぜう」などの、いわば商標用に作られた言葉である。「俳句」(2013年6月号)所載。(清水哲男)
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