May 20 2013
三十分のちの世恃む昼寝かな
加藤静夫
読者によっては、大袈裟な句と受け取る人もいるだろう。「三十分のちの世」などと言っても、「現在の世」とほとんど変わりはないからである。たまには三十分の間に大きな地震が起きたりして、世の中がひっくり返るような騒ぎになるかもしれないが、そうした事態になることは稀である。私たちは三十分どころか二十四時間後だって、今と同じ世の中がつづくはずだと思っている。今も明日の今頃も、ずうっと先の今頃も、世に変わりはないはずだと無根拠に信じているから、ある意味で安穏に生きていけるのだ。しかし、だからこそ、なんとか三十分後の世が変わってくれと恃(たの)みたくなる気持ちの強くなるときがある。たとえば私などは原稿に切羽詰まったときがそうで、どうにも書きようがなく困り果てて、ええいままよとばかり昼寝を決め込むときがある。まさに三十分後の世に期待をかけるわけだが、たまには思わぬアイディアが湧いてきたりして、効果があったりするのだから馬鹿にできない。でも、よくよく考えてみれば、この効果は「世」が変わった結果ではなく、自分自身が変わったそれなのだけれど、ま、そのあたりは物は考えようということでして……。『中肉中背』(2008)所収。(清水哲男)
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