December 30 2012
大晦日さだめなき世の定哉
井原西鶴
今年もあと二日を残すところとなりました。政権が交代し、オリンピックでヒーロー・ヒロインが登場した反面、いまだ故郷に戻れない被災者も多く、昔も今も「さだめなき」無常の世であることに変わりはありません。掲句は、西鶴作『世間胸算用』を集約している句です。『世間胸算用』は、「大晦日は一日千金」というサブタイトルがついた二十からなる短編集です。江戸時代の売買は、帳面による掛売り掛買いがふつうで、大晦日は、そのツケの最終決済日でした。一種の紳士協定による信用取引が江戸の「定」ですから、暴力の行使は許されません。そのかわり、暴力以外のあらゆる秘術を尽くして借金取りから逃れ、かたや追いかけ、元旦というゲームセットまでの極限的な経済心理ゲームが繰り広げられています。たとえば、「亭主はどこだ、いつ帰るのだ」と急き立てる借金取りが凄んでいるところに、丁稚(でっち)が息せき切って帰り、「旦那様は大男四人に囲まれてあやめられました」と女房に伝えると、女房は驚き嘆き泣き騒ぐので、仕方なく件の借金取りは、ちりぢりに帰りました。ところで、女房も丁稚もケロリとしている。やがて、納戸に身を隠していた旦那がふるえながら出てくる、といった落語のような狂言仕立てです。平成の現代は、元禄の「定」とは大いに違います。それでも、大晦日は特別な日であることに変わりはなく、入金を済ませたり、仕事納めをしたり、賀状を書きあげたり、大掃除・整理整頓、何らかのけじめをつけて、新年を迎えようとする心持ちに変わりない定めがあるように思われます。今年一年、お世話になりました。よいお年をお迎えください。なお、掲句の「さだめ・定」の表記はいくつかの本で異なりますが、今回は、『井原西鶴集 三』(小学館)巻頭に載っている短冊によりました。(小笠原高志)
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