October 01 2012
潜水艦浮かびあがれば雨月なり
杉本雷造
雨降りのために名月が見られないのが「雨月」。曇って見えないことを「無月」と言う。昨夜のように、猛烈な台風のために見られない現象を何と言えばよいのか。「雨月」には違いないけれど、表現としてはいかにも弱い。名月を毎年待ちかまえていて詠む人は多いから、今年はどんな句が出てくるのか。お手並み拝見の愉しみがある。掲句は、月見の句としてはなかなかにユニークだ。まさか潜水艦が月見と洒落る行動に出ることはあるまいが、浮きあがってきた姿がそのように見えたということだろう。あるいは、想像句かもしれない。だが、せっかく期待に胸ふくらませて浮上してみたら、何ということか、海上は無情の雨だった。月見どころか、あたり一帯には雨筋が光っているばかりで、空は真っ暗である。「雨か……」。しばらく未練がましく空を見上げていた潜水艦は、大きなため息のような水泡を噴き出しながら、力なく再び海中に没していったのだった。この潜水艦の間抜けぶりが愉しい。名月の句などは詠まれ尽くされているように思えるが、こういう句を読むと、まだまだ死角はありそうである。『現代俳句歳時記・秋』(2004・学習研究社)所載。(清水哲男)
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