July 08 2012
ゆるやかに着てひとと逢ふほたるの夜
桂 信子
ゆるやかに浴衣を着てひとに逢う。一緒に蛍を見に行く仲だから、たぶん逢いびきでしょう。ややしどけなく着付けをした足もとは草履ですから、水辺の小径を、小股にちょぼちょぼと歩かなくてはなりません。蛍は、月明かりがあっても明滅しないほどですから、漆黒の闇の中、二人、草間の小径をそろりそろりと手をひいて、つかずはなれずあゆみをいっしょに歩きたい。句には、そんな期待があります。七夕は、織姫と牽牛の年に一度の逢瀬。地上の水辺では、蛍が発光し、求愛しています。女がゆるやかに浴衣を着てひとに逢うとき、男は、その胸の裏から発光する輝きを垣間見なくてはならないのではないか、と、こちらもその光に照らされなくてはならないんじゃ ないか、と、現実ではなかなかほとんどあり得ぬシチュエーションながら、妄想の中で決意 する次第であります。「日本大歳時記・夏」(1982・講談社)所載。(小笠原高志)
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