July 01 2012
髪に櫛とほりよき朝夏燕
鈴木真砂女
験(げん)のいい朝の句です。黒髪の真砂女は、櫛の通りのよさに気分をよくしています。それは体調のよさの表れでもあり、それ以上に、女としての艶のよさを自覚するよろこびでもあるでしょう。銀座で小料理屋を営んでいた女将ですから、朝から仕込みは始まっています。活きのよい肴を出すと同じく、酔客に、粋な自身を差し出す準備。長く、秘めて激しい恋情を抱き続けたこの作者にふさわしい、意地と媚態と潔さをも感じるのは、僭越でしょうか。九鬼周造は、この三位一体の表れが粋であると論じています(『いきの構造』)。ツバメは五月頃に飛来し、カラスやヘビに襲われにくい民家の軒下などに巣を作り、うまく、人の暮らしと共存して卵を産み、子を育て、 七月頃に は旅立ちます。その家づくり、子育ても、そして飛ぶ姿にもスピードがあります。髪に櫛の通りのよさ、夏燕のはやさ。ここに、淀みのない商売の吉兆を占ったのでしょう。「日本大歳時記・夏」(1982・講談社)所載。(小笠原高志)
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