May 09 2012
葬列に桐の花の香かむさりぬ
藤沢周平
紫色が印象的な桐の花は、通常4月から5月上旬にかけて咲く。今の日本では産地へ行かないかぎり、桐の花を見ることがむずかしくなった。ちなみに桐の花は岩手県の県花である。10年近く前になろうか、中国の西安に行ったとき、田舎をバスで走りながら、菜の花の黄と麦の緑、それに桐の花の紫、三色を取り合わせた田園の風景に感嘆したことがあった。掲句は周平が、もともと「馬酔木」系の俳誌「海坂」1953年7月号に、四句同時に巻頭入選したなかの一句。他に「桐の花踏み葬列が通るなり」など、四句とも桐の花を詠んだものだった。このとき周平は肺結核で東村山の病院に入院中で、近くに桐の林があったという。残念ながら私は桐の花の香を嗅いだことはないけれど、しめやかに進む葬列を桐の花の香と色彩とが、木の下を進む葬列を包むようにかぶさっているのだろう。美しくやさしさが感じられるけれど、どこかはかなさも拭いきれない初夏の句である。このころ周平は最も辛い時代だったという。『みんな俳句が好きだった』(2009)所載。(八木忠栄)
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