March 25 2012
雀来て障子にうごく花の影
夏目漱石
庭、縁側、障子、畳。日本の家屋には、室内に居ながら季を楽しめるしつらえがありました。漱石の小説の主人公たちは、横たわる姿勢で沈黙を保ち、そこに集まる人々の饒舌が物語を進行させていく----という蓮見重彦氏の漱石論がありますが、掲句の漱石も、畳に横臥しながらぼんやり障子をながめていたのかもしれません。ふいに雀がやって来て、桜の小枝にちょこんと乗る。このとき、初めて漱石の目の焦点は花の影をとらえます。雀がうごかした花の影に心をうごかされたのでしょう。漱石が生きた明治時代は、まだ映画産業が成立していませんでしたが、そのかわり、日本家屋に住まう人たちは、障子をスクリーンにして、季ごとの花鳥諷詠を楽しむことができました。アニメーションがなかったこの 時代に、雀が演出するアニメを漱石がほほ笑んだ、そんな俳味を感じます。明治24年の作。当時、東京帝大特待生の24歳。『漱石全集17巻』(岩波書店)所収。(小笠原高志)
『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます
|