March 24 2012
山彦の山を降り来よ蓬餅
吉田鴻司
山彦は、山の神であり精霊であり妖怪の一種でもあるらしい。確かに、自分の声と分かっていても誰かが答えてくれている気がする。この句の作者は、山を眺めつつ山に親しみ、山彦に、降りておいで、と呼びかけている。自分の子供の頃の山暮らしを振り返っても、春が一番思い出深い。土筆や蓬を摘み、れんげ畑で遊び、すべてが光り出す頃の記憶は、風の匂いとともに鮮明であり、蓬餅の草の香りがまたなつかしさを深くする。そんなことを思いながら読んだ句集のあとがきに「私は山に母を感じるのである」とある。山彦は母の声となって還ってくる、と語る作者だからこそ、降り来よ、がやさしく感じられるのだろう。春の山が微笑んでいる。『吉田鴻司全句集』(2011)所収。(今井肖子)
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