January 30 2012
袋綴ぢのヌード踏まるる春霙
柴田千晶
週末(2月4日)は立春だ。しかし歌の文句じゃないけれど、今年は「春は名のみの」寒さがつづきそうだ。霙(みぞれ)だって降るだろう。句はまことに荒涼たる光景を詠んでいる。作者によれば、場所は横浜の物流倉庫で日雇い仕事をするための人々を運ぶマイクロバスの駐車場だそうである。働き手には女性が多いらしい。そんな場所に、週刊誌の袋綴じページが散乱しており、疲れた女たちが容赦なく霙に濡れた靴で踏んでゆく。男のちっぽけな暗い欲望を満たすためのページを、避けるのも面倒と言わんばかりに踏みつけて行き過ぎる。私はかつて週刊誌の仕事をしていたので、似たような光景は何度も目撃して覚えているが、そのたびにやはり心が痛んだものだった。袋綴じであれなんであれ、そこには作る側のなにがしかの思いが籠められている。けれども、そんなことは当事者だけの感傷にすぎなく、バスを待つ人々は何の痛みも感じることはないのだ。それが人生だ。人さまざま、人それぞれ。霙と泥に汚れた週刊誌の破れたページから、立ち上がってくるうそ寒い虚無感がやりきれない。「俳句界」(2012年2月号)所載。(清水哲男)
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