January 24 2012
いつまでも猟犬のゐる柩かな
小原啄葉
犬と人間の交流は1万年から1万5千年前にもさかのぼる。それまで狼と同じように群れを作り、獲物を仲間で追っていた犬が人間の食べ残した動物の骨などをあさるうちに、移動する人間に伴って行動するようになっていったという。現在の溺愛されるペットの姿を見ていると、人間が犬の高度な知能と俊敏な特性を利用したというより、扱いやすい生きものとして犬が人間を選んだように思えてくる。とはいえ、犬と人間の原初の関係は狩の手伝いである。優れた嗅覚と聴覚を持つ犬は人間より早く獲物を発見して追い込み、仕留め、回収することを覚え、また居住空間でも外敵の接近を知らせるという警備の役目もこなした。その律儀なまでの主従関係はハチ公物語などでも周知だが、ことに猟犬となると飼い主を狩りのリーダーとみなし、チームの一員として褒めてもらうことに大きな喜びを得る。掲句は主人が収まる柩から離れようとしない犬の姿である。通夜葬儀とは家族には手配に継ぐ手配であり、その慌ただしさで悲しみもまぎれるというものだが、飼い犬にとっては長い長い指示待ちの時間である。じっと動かぬ主人からの、しかしいつ放たれるか分らない「行け」という言葉を犬はいつまでも待っている。『滾滾』所収。(土肥あき子)
『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます
|