January 16 2012
ひとつふたつ持ち寄る憂ひ毛糸編む
坂石佳音
近所の親しい人たちが、何人かで毛糸を編んでいる。昔はよく見かけた光景だ。みんなの手が動いているのは当然だが、口も動いている。あたりさわりのない四方山話などに興じているうちに、そのうちの誰かが個人的な愚痴を語りはじめたりする。それが引きがねとなって、「そう言えば……」などと別の誰かもあまり愉快ではない話を切り出したりする。傍から見れば長閑にしか見えない編み物の光景だが、そんな座にいる人たちにも、当たり前のことながら悩みもあれば「憂ひ」もあるのだ。その「憂ひ」をそれぞれが持参してきた毛糸玉に掛けて、「持ち寄る」と表現したところが秀逸である。毛糸玉の色彩にはいろいろあるように、むろん各人の「憂ひ」もさまざまである。表現技巧は洒落ているけれど、中身は決して軽くない。アタマだけでは作れない句だ。『続続 へちまのま』(糸瓜俳句会15周年記念誌・2011)所載。(清水哲男)
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