December 26 2011
行く年や一編集者懐かしむ
榊原風伯
作家や評論家などの著者が、かつての担当編集者を懐かしんでいるともとれるが、この場合はそうではない。作者は私の河出書房「文芸」編集部時代の同僚だったし、河出退職後も編集者を勤めた人だから、「一編集者」とは作者自身のことだ。どんな仕事でもそうだろうが、月刊誌編集者の年末も多忙である。というよりも、普段の月とは仕事のリズムが激変するので、退職してからも年末のてんてこまいは特別に記憶に残るのである。忙しさは、しかしクリスマスを過ぎるあたりで、急ブレーキでもかかったかのように霧消してしまい、仕事納めまでの何日間かは今度はヒマを持て余すことになる。このいわば空白期に、大げさに言えば、編集者は「行く年」とともに一度死ぬのである。再び生き返るのは、年が改まってからの数日後であり、それまでのわずかな期間は編集者としてのアンテナや神経をたたんでしまう。つまり、職業人的人格を放棄するというわけだ。そんな年末の曲折のことを、作者は「過ぎ去ればすべてなつかしい日々」(永瀬清子)とでも言いたげに、ひとりぽつねんと回顧している。『炎環・新季語選』(2003)所載。(清水哲男)
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