November 28 2011
初雪や父に計算尺と灯と
山西雅子
いまどき計算尺を使う人はいないだろうから、回想の句だろう。夕暮れころから、ちらちらと白いものが舞いはじめた。初雪である。まだ幼かった作者は、雪を見て少しく興奮している。さっそく部屋で仕事をしている父に雪を告げようとしたのだけれど、彼はそのような外界の動きとは隔絶されているかのように、一心に計算尺を操っている。手元近くにまで灯火を引き寄せ、カーソルを左右に動かしながら細かい目盛りを追っている。ちょっと近寄り難い感じだ。この情景から見えてくるのは、技術畑で叩き上げられた謹厳実直な父親像であり、また真っ白い計算尺は灯影に少し色づいていて、そんな父親の胸の内を投影しているかのようにも見えている。初雪の戸外の寒さと、家の中の父親のあるかなしかの暖かみ。私の父も計算尺をよく使っていたので、この句の微妙な味は、よくわかるような気がする。「俳句」(2011年12月号)所載。(清水哲男)
『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます
|