November 21 2011
冬青空毎日遠くへ行く仕事
興梠 隆
良く晴れた冬の朝、出勤時を詠んだ句だ。いつもと同じ遠い職場に出かけてゆく。そのまんま、である。それがどうしたの、である。しかし、そこまでしか読めない読者は不幸だ。この句の力は、そのまんまの中に、一種の隠し味を秘めているところにある。「遠くへ」は単なる距離感を示しているだけではなくて、同時に時間性を持ち合わせており、それが無理なく読者に伝えられている。寒いけれども、空は晴朗だ。いつものようにその空の下に出て行くときに、作者はふっと来し方行方のことを思っている。毎日さしたる意識もせずに遠い仕事に出かけてきたこれまでの生活というもの、そしてこれからもつづいていくであろう人生の道筋。そういう時間性、歴史性が一瞬明滅して、冬空に消えてゆく感慨を、「遠くへ」の語に語らせているというわけだ。そしてここには、格別な希望もなければ悲観もない。ただそのように自分が生きていることへの確認があるだけである。こういう気持ちは、ときに誰にでも湧いてくるだろう。ただ、誰も書きとめてこなかっただけである。作者名の読みは「こうろき・たかし」。『背番号』(2011)所収。(清水哲男)
『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます
|