November 05 2011
夜學子がのぼり階段のこりをり
國弘賢治
久しぶりに読みたくなって開いた『賢治句集』(1991)にあったこの句は昭和三十二年、亡くなる二年前、四十五歳の作。夜長というより、夜寒の感じがする句である。深夜の静けさの中、帰宅した夜学生が階段をのぼる足音が聞こえ、やがて扉の閉まる音がしてまた静かになる。足音が消えて元の静けさに戻ったのだが、さっきまで意識していなかった階段の存在が、作者の意識の闇の中に浮かび上がり闇は一層深くなる。眠れない夜の中にいて、作者はやがて消えていく自分を含めた人間の存在に思いをめぐらしていたのだろうか。一生病と共にありながら、俳句によって解放されたと自ら書き残している作者にとって、句作によって昇華されるものが確かにあったのだとあらためて思う。(今井肖子)
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