今宵はもうひとつの名月・十三夜ですね。栗名月、豆名月とも。(哲




20111009句(前日までの二句を含む)

October 09102011

 秋ふかき目覚め鉄階使ふ音

                           岡本 眸

階という言い方は通常聞きませんが、鉄の階段ということなのでしょう。句を読んでいるとたまに、作者が苦労をして言葉を縮めていることがあります。あまりやり過ぎると不自然になってしまいますが、この句は素直に受け入れられます。それほど工夫をして組み込んだ「鉄の階段」は、しっかりと存在を示しています。ああずいぶん寒くなったなと目覚めた朝に、まだかなり早い時刻なのに、外の階段をあわただしく下りて行く音が聞こえてきます。アパートの外階段なのでしょうか。下りて行く人の手のひらは、握った鉄のあまりの冷たさに、身ぶるいをしていることでしょう。この句がすごいのは、たったこれだけの長さの中に奥行きのある物語をしまいこんでいることです。朝、あわただしく外階段を下りて行く人の表情も、あるいはその音を聞きながらまだ布団に入っている人の表情も、それぞれに自分のこととして感じることができるのです。『日本大歳時記 秋』(1971・講談社) 所載。(松下育男)




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