August 29 2011
旋盤のこんなところに薔薇活けて
菖蒲あや
戦後まもなくの句。下町辺りの小さな町工場だろう。薄暗い作業場のなかでは旋盤がうなっており、何かの用事でそこに入った作者は、そんな場所に薔薇の花が活けられているのを見つけた。まさに「おや、こんなところに……」という驚きとともに、誰かは知らぬが花を飾った工員の優しい気持ちが思われて、瞬時幸福な気持ちになっている。この句は作者が所属した結社誌「若葉」の最初の入選句だ。ただし、師の富安風生は「こんなところに」を「かかるところに」と添削した上で掲載したのだった。ところが、作者はいかに師の添削といえども肯定しがたく、生涯「こんなところに」で押し通したというエピソードがある。ちょうどいま発売中の「俳句界」(2011年9月号)が菖蒲あやの小特集を組んでおり、そこに登場している論者三人が三人ともこの話を披露しているから、身内ではよほど有名なエピソードなのだろう。たしかに「かかるところに」としたのでは、句の骨格はしゃんとするけれど、下町らしい生活感覚が薄められてしまい、あまり面白くはない。『路地』(1967)所収。(清水哲男)
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