August 28 2011
霧しぐれ富士を見ぬ日ぞおもしろき
松尾芭蕉
富士山を見ようと楽しみにしてやってきたのに、いざ到着してみたら、霧が深くてなにも見えません。でもそんな日も考えようによっては面白いではないかと、そのような意味の句です。たしかに、生きていればそういうことって、幾度もあります。ディズニーランドに遊びに行こうという日に、朝から雨が激しく降っていたり、家族旅行の前日に、なぜか姉が熱を出して中止になってしまったり。楽しみにしていた分だけ、落胆の度合いも大きくなるというものです。それにしても、やはり芭蕉は普通ではないなと思うのです。この句を読んでいると、決して負け惜しみで言っているようには感じられません。「霧しぐれ」という言葉が、なによりも美しいし、霧の向こうにあるはずの富士の姿が、思いの中にくっきりと浮かんでくるようです。体験している自分に振り回されないって、なんて素敵な生き方だろうって、つくづく思うのです。『芭蕉物語(上)』(1975・新潮社) 所載。(松下育男)
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