August 21 2011
黒板負ふごと八月の駅の夜空
友岡子郷
黒板を負ふ、という強いイメージに喩えられているのは、なんともありふれた夜空です。「八月の駅の」なんて、ずいぶん個性のない言葉たちです。でも、そうしたのは作者の意図するところなのです。あってもなくてもいいような言葉が、こんなに短い表現形式の中にも必要になるなんて、驚きです。たとえ17文字とはいえ、全部の言葉が強く自己主張を始めたら、句が暑苦しくなるばかりです。「黒板を負ふ」だけで、もう充分イメージが読者に与えられているわけですから、あとはこのイメージの邪魔をしないようにしなければなりません。暑い日の仕事帰りに、ふと駅の上空を見上げれば、人生の、何か重要なメッセージが空に書かれていたように一瞬思われ、でも目を凝らしてみれば、黒板消しを持った大きな手が上空に振られ、あとはもう何も見えません。『日本大歳時記 秋』(1971・講談社)所載。(松下育男)
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