July 03 2011
金魚玉金魚をふつと消す角度
辻田克巳
金魚玉というのは金魚鉢のことです。ガラスの球形なのだから玉といったのでしょうが、球形は球形でも、上の方は開いていて、フリルのような形にガラスが波打っています。たいていはその波に、赤や青の線が描かれていて、子どもの頃には飽きずに中を覗き込んでいました。どうしてあんなに時間があったのだろうと、不思議になるほどに、ボーっとして金魚を見つめていました。それで何かを学んだかというと、そんなことはなく、ただ意味もなく暇をつぶしていただけなのです。おとなになって、会社勤めを始めてしまってからは、目的もなく何かをじっと見つめている時間なんて、なくなりました。ただただあわただしく、追われるように一日を過ごしています。ふっと消えてしまった大切なものは、あの頃見つめていた金魚玉の中の金魚と、あと何だったかと、考えてしまいます。『新日本大歳時記』(2000・講談社) 所載。(松下育男)
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