May 08 2011
人々に四つ角ひろき薄暑かな
中村草田男
この句にどうして惹かれるかと言うと、つまるところ「ひろき」の一語なのかなと思います。うつむいて歩いていて、ふと目をあげた先に、思いもよらぬ広い交差点があった。それだけのことでも、ああ生きているなと感動できるわけです。そういえば勤め人をしているときには、電車に乗ることは、会社のある渋谷駅に向かうことでした。さて定年になり、もう会社に行かなくてもいいんだと思ったある日、駅のホームで電車を見たときに、身の震えるような「ひろさ」を感じました。逆方向にも電車は走っていて、乗りたいと思えば乗ってもかまわないのだと思ったのです。生きる喜びって、そんなに複雑なものではないのだなと、あらためて実感しました。鬱屈した日々の街角でも、ちょっと曲がった先には広々とした四つ角が待っているのだと、信じて生きてゆきたいと、思っているのです。『角川俳句大歳時記 夏』(2006・角川書店)所載。(松下育男)
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